下高井戸商店街…見聞録

下高井戸商店街 5月のある土曜日に、新宿から京王線快速で3駅目、副都心新宿から10分という交通至便の地「下高井戸」の駅前にある、下高井戸商店街を訪問しました。 橋上にある駅改札を出ると左右に数軒ずつチェーン店等が並ぶ駅通路が真っ直ぐに伸び、その突き当りの階段を右に降りると商店街、左に降りると世田谷線の駅に出ます。この駅通路を歩いているときは、あまりにどこにでもありそうな眺めで特に期待感もなかったのが本音です。  ところが、通路の端まできたときに驚きました。 目に飛び込んできたのは、昔ながらの「下高井戸駅前市場」という文字と踏切、ごちゃごちゃとした町並みと大勢の人波…子供の頃母親に連れられて近所の市場に買い物に出かけたような懐かしさ…一気に昭和の商店街へタイムトラベルしたような気分に襲われたのです。 

そこには、したたかな戦略で昭和の商店街の雰囲気と繁盛を維持し続ける「シタタカ」商店街ならぬ「シモタカ」商店街が広がっていました。 地元の人びとが日常的に集い、買い物を楽しむ商店街には、何が重要なのか? 下高井戸商店街振興組合の前田勝弘理事長、石井健夫専務理事ご両名のお話を伺い、この「シモタカ」には、そのヒントがいっぱい詰まっていることに気付きました。
以下にその見聞した内容をご紹介します。

歴史と特徴

 下高井戸商店街は、500m圏に1万8000人程度の人口をもつ、加盟店舗約260店の商店街です。
地元の人以外はあまり意識していませんと言うか、私が知らなかっただけかもしれませんが、江戸時代には、甲州街道の最初の宿場が置かれた宿場町でした。日本橋からちょっと遠すぎるということで、後から新宿が新たに1番目の宿場として設けられて、今では甲州街道と言えば新宿に看板を奪われた格好です。

  その後、関東大震災や第二次大戦時の戦災で東京の下町が被害を受けた際に、寺や人が下町から移ってきたこともあり、下町の雰囲気と排他的でない穏やか気風が町の持ち味になったと言われています。この気風を生かして商店街がひとつの振興会でまとまった活動を行うことで、世田谷と杉並の区境にあるにもかかわらず、行政区によって街が分断されることなく、一体の街として街づくりの施策がすすめられています。

  これらの歴史的雰囲気や気風が町の大きな資産であると、理事長が語っておられましたが、最近注目されている「ソフトパワー」を、自分の地域の資産ととらえることの重要さを改めて認識した次第です。「ソフトパワー」について、もうひとつ付け加えると、下高井戸の特徴に「ネーミング」の巧さがあります。うまいネーミングは、その名前がさすサービスや品物のイメージを明確にし、コミュニケーションにとても有功です。どんなネーミングが出てくるかは、以下のお楽しみです。

  もう一つの商店街の資産が、振興会が保有する「しもたか・ステーション」です。商店街に面した小さなお店一軒分程度の2階建ての箱ものの資産です。この「しもたか・ステーション」は、1階が宅配サービスの受付、店舗案内所や休憩所、イベントスペース、2階が会議室兼倉庫(たまに赤ん坊をつれたお母さんの授乳室)と商店街が公共的役割を担っていく拠点として、フルに活用されています。
箱もの行政は、しばしば批判の対象になりますが、活用するアイデア次第では、大きな力を発揮することが見て取れました。

 

下高ステーション
商店街日大側
しもたかステーション
商店街日大側

 

商店街のコンセプト

 前田理事長のお話では、商店街の理念として大事にしている言葉は、「ずっと下高」とのこと。地域住人の生活基盤を提供し、安心して暮らしていけるサービスを提供することで、ずっと下高井戸で生まれ育って商店街・地域に愛着を持ってもらいたいという思いがこめられた言葉(キーワード)です。

  このキーワードで商店街の活動をとらえ直してみると、同じ活動でも、ぐっと意義が増してくるので不思議です。
例えば、「買い物代行(宅配事業)」というサービスがあります。このサービスは、一般に、高齢者を利用者と想定していくつもの商店街で実施されたものの、収益事業化が難しく息切れしたところも多いようです。「シモタカ」でも収益事業とは言えないようです。ところが、ここでは、当初は想定しなかった利用者として、新生児をかかえる母親が利用するケースがあることがわかり、「ずっと下高」の精神から、継続していこうと決めています。というのも、子供が成長し、公園デビューする頃には、お母さんも子連れで買い物に出かけられるようになり、宅配サービスを利用しなくなります。でも、新生児をかかえた一時期、この宅配サービスがなかったらお母さんは子供を寝かしつけて心配をしながら大急ぎで買い物を済ませなければなりません。このサービスで子育てにまつわるお母さんの大きな不安がひとつ解消したわけです。子育てがしやすい街には、若い世代が喜んで住んでくれ、さらに次の世代の故郷になっていく…「ずっと下高」の精神がここに生きています。

  また、カタログだけ求めて、ちっとも注文されないお客様がおられるとのこと。疑問に思いなぜですか?と聞いてみたところ、「今は体が動くので、元気なうちは自分で買い物をしたい。将来体が動かなくなったら使うよ」とのお答えをもらったこともあるなど、地域に住む人の安心(将来動けなくなっても、この町であれば、生活していけるという思い)を支えるサービスになっています。(こういう対話ができることも、大切なことのひとつです)この宅配事業に象徴されるように、「ずっと下高」は、これからも振興会の活動の心の基準点となっていくことと思いました。

商店街の活動

しもたかマップ  「下高井戸商店街」のお話を聞いて、驚いたのが、地元世田谷区の施策(*注)に後押しされた加盟率の高さと、その加盟率に応えるべく、他所でも見られる商店街の活動にひと工夫、ふた工夫を加えて、徹底して実施するそのパワーです。 (*注)世田谷区は、区の産業ビジョンにおいて商店街を「地域の生活を支える基盤である」と位置づけて商店街への支援を行っている。商店街への加盟促進条例もあり、チェーン店も含めて90%の加盟率となっている。 活動の工夫の一端を、次にご紹介します。

 まず、店舗マップ「しもたかマップ」です。 飲食店編、食料品編、日用雑貨編など なんと5分冊(!)になっており、しかも、パン屋さんならパン屋さんといった同種のお店の特徴を比較表にして掲載しています。商店街では、これをマップではなく「下高井戸店舗カタログ」と称しているとおり、買い物客はこの店舗マップを見ながら、カタログショッピングのような楽しみかたが出来てしまいます。 このマップの各店を比較する項目は、消費者代表が、「こういうことがあらかじめ分かれば便利!」という視点で、お店との対話を繰り返し作り上げたというすごい凝りようです。この3月からは、ホームページへも発展させています。

  次に、スタンプです。最近流行りの電子マネータイプではなく、従来型の紙シールのスタンプですが、貯める楽しみをアップするために様々な販促活動と連動しています。 一般によく見られるのが、ポイント何倍デーといった、ポイントをつける際のサービスですが、「台紙1枚分スタンプを集めれば5百円分の買い物ができる」に留まらず、ここ下高では、ポイントを使う際への工夫が様々に行われています。誕生月や母の日、敬老の日など年に何回かの特定の期日には、交換比率をアップしたり、地元映画館の入場券や特定のサービス品と高率で交換できるなど、ポイントを使う楽しみを高めています。 特に、下高オリジナルのサービスとして好評なのが、「切取りクーポン」です。特定の期間中、「切取りクーポン」とよばれるクーポン型のちらしが配布され、自分がほしい商品・サービスのクーポンを切り取って、ポイントを貯めておいた台紙に貼り付けてお店へ持参することで、通常のクーポンの交換率よりずっとお得(ものによっては2倍以上!!)の率でねらいの品物・サービスと交換できるというサービスです。
 宅配サービスも、先に紹介した通常の宅配サービスに加え、お買いもの帰りに荷物を預けておけば、家まで運んでくれて、手ぶらで帰れるサービス「手ぶら便」(300円)なども行っており、高齢者や赤ん坊のいる家庭などに安心・便利をサービスしています。 また、街路灯も、ひと工夫をこらしています。 区の補助金を活用して更新するに際して、頭上の主照明の他に、足元を照らすLED照明と太陽電池を組み込んだ街路灯を設置しました。万一、震災などで停電しても、足元のあかりは絶えることがないということで、街の安全・安心のアップにつながっています。

しもたかマップ
スタンプカード
しもたかマップ
スタンプカード

 

商店街の将来…街づくり協議会への参画

 このように、にぎわいを見せる下高井戸商店街ですが、今後大きな転機を迎えます。京王線の再開発(高架化または地下化)の計画方針が近々決まる予定であり、駅前の再開発が始まります。商店街では、地元の意見を取りまとめて、街づくりをリードすることを目指しています。京王線の高架化にともなう駅前再開発にあたっては、商店街が地域の意見をとりまとめて地域の意見を一本化し、事業者と交渉してくことで、地域にとってより有意義な再開発としていきたい。そのために、街づくり協議会に参加し、街づくりのコンセプトとして、次の点を重視して進めていくとの御説明でした。

  1. 賑わいのあるまち…まちのシンボルとして生鮮市場を再生。映画館など文化施設等も整備

  2. 豊かな食があるまち…築地場外市場のようなイメージで

  3. ふれあいのあるまち(昭和の篤い人情や)…客とお店のコミュニケーションを大切に、商店街を支援してくれる人の輪を広げる。

  4. 歴史と文化があるまち…宿場町、寺町などの歴史性、大学との連携など

  5. 安全・安心があるまち…京王線との立体交差化、駅前広場整備による交通結節点整備

 

終りに

下高井戸商店街 5月のある土曜日に、新宿から京王線快速で3駅目、副都心新宿から10分という交通至便の地「下高井戸」の駅前にある、下高井戸商店街を訪問しました。 橋上にある駅改札を出ると左右に数軒ずつチェーン店等が並ぶ駅通路が真っ直ぐに伸び、その突き当りの階段を右に降りると商店街、左に降りると世田谷線の駅に出ます。この駅通路を歩いているときは、あまりにどこにでもありそうな眺めで特に期待感もなかったのが本音です。  ところが、通路の端まできたときに驚きました。 目に飛び込んできたのは、昔ながらの「下高井戸駅前市場」という文字と踏切、ごちゃごちゃとした町並みと大勢の人波…子供の頃母親に連れられて近所の市場に買い物に出かけたような懐かしさ…一気に昭和の商店街へタイムトラベルしたような気分に襲われたのです。 

-> 報告者 間野